天塩川イトウ釣り、トラディショナルスペイとの出会い。
ワクワクする事をしていると必要な時に必要な人が現れると聞いた事がある。
2014年初夏の天塩川。初めての天塩川で僕は途方に暮れていた。天塩川の情報は検索しても少ないし、道路から川を見る限り、入れそうな場所は見当たらないし、川の規模が大き過ぎてポイントの検討すらつかず、圧倒されていたのだ。縁とは本当に不思議なものだと思う。出会うのが必然だったかのように、突然それは起こる。早朝5時、道の駅で釣りの準備をしているとロッドホルダーを付けたランドクルーザー、そして一人のダンディなオジサマが現れた。
イトウ釣りですか?そうだよ、君もフライマンかい?そうなんです、初心者ですけど…一緒に行くかい?
僕が彼に声をかけた事から全ては始まった。
中川町の流れが1番。釣れない釣りしてるんだ。リトリーブの釣りはしないよ。スイングで絶対に口横にかける。イトウは一匹も殺した事はない。
彼はそう言い放った。狩猟免許の試験官でプロハンターでもある彼は羆しか撃たないらしい。大きな羆のキバの携帯ストラップが静かにそれを物語る。中川町の天塩川の流れは速くそして重い。90度角度変換のチェンジダイレクションでロングベリーダブルテーパーのフローティングラインが空を舞う。そのフォームの美しさ、弧を描くフライラインの軌道、滞空時間の長さとその飛距離に目を奪われた。
メンディングしてフライラインが川の中心の流れに押されてフライがスイングし始めたら…ズドン!天塩川でイトウがかかれば一気に100メートル走られるから覚悟しておきなさい。4号のティペット?そんなんじゃすぐ切られる、天塩川のイトウは虹鱒なんかとはわけが違う。
ブルースアンドウォーカーの高番手ダブルハンドロッド、スペイマスター。ハーディーの黒鉛塗装ビンテージパーフェクト。フライは綺麗に巻かれたサーモンフライとスペイフライだった。
トラディショナルスペイでスイングの釣りにしか興味無い。イントゥルーダー?ゾンカー?そういう泳ぐフライは使わないよ。
最高峰の道具を完璧に使いこなし、ディープウェーディングでのスペイキャスティングする彼の佇まいは優雅で美しく、なによりもカッコいい。そんな彼と日中は天塩川で一緒に釣りして、ロッジで飲み語り、3日間共に過ごした。僕はシューティングスペイラインしか持っていなかったが、シングルスペイを手取り足取り教わった。ダンディズムとハードボイルド。どことなく哀しみも帯びていて魅力的な方だった。フライフィッシングだけでなく、あらゆる釣り、ヨット、クルマ、狩猟、音楽・・・多くの事に対して達人だった。ブラックジョークセンスも素晴らしく、笑いが絶えず、すごく貴重な3日間だったと思う。
結局、一緒に釣行した3日間、イトウは釣れなかったが、(彼は到着した初日に1尾釣ったらしい)、改めて最高の趣味と出会ってしまったと思う。フライフィッシング。釣れなくてもこれだけ面白いのに、もし釣れたらどれほど面白いのだろうか。
こんな道具でこんな釣れない釣りしてるバカは日本に5人くらいしかいないよ。
どうやら僕は6人目の素質があるかもしれない。彼とはきっと友達になれた(と個人的には思っている)。傷だらけのフライラインもブラックジョークを交えながら丁寧に補修してくれた・・・別れ間際、感極まって涙する寸前だった。大丈夫、バレてないはず・・・この時、翌年の2015年からトラディショナルスペイの修行が始まる事を僕はまだ知らない。そして今後、また凄いスペイキャスターと出会う事になる。彼らは表に出ないし、SNSなどもやっていない。こんな方々と知り合えるのは僕がリバーノマドだからだ。

北海道200Days FlyFishing Campの旅12年目、旅する北海道フライフィッシングガイド【リバーノマド】です。2013年6月15日〜11月15まで北海道でのフライフィッシングガイドを承ります。ご予約はお早め目に。