物心ついた時、今ではすっかり住宅街になってしまった地元は住宅街なんかじゃなく、田んぼと鬱蒼とした林ばかりたった。地元は群馬上州空っ風、赤城おろしが吹き上がる、吹上という地名。うちの裏も大きな木々が生い茂る林だった。強風が吹くとその木々が怪物のように思えて震えていた記憶がある。そう、となりのトトロのあれである。
実家の屋号はトウカミヤといい、敷地内には小さい稲荷神社もある。祖父の名前は稲一(トウイチ)。祖父はこの辺は以前多くの人がキツネにつままれたという不思議な昔話を良くしていた。それって一体なんなんだろう?飲み過ぎたんだろうか?それとも、、そんなわけか今でも単独釣行はとても怖い。ヒグマよりも自然そのものというか、妖怪か精霊か妖精か、見てはいけない存在、そういう得体の知れない何かの方が圧倒的に怖い。川の強い流れの轟音も、深緑の深淵も、真っ黒で巨大な岩盤も、計り知れない年月が目に見えてしまう剥き出しの地層も、もはや何もかも怖い。湖では遥か彼方から湖面を騒つかせて風がやってくる。風が見える感覚だ。あんなの妖怪以外のなにものでもない。北海道の広大な湖に立ち込み、半径数キロに自分一人だけの状況を想像してみてほしい。
暗雲が太陽を覆い、風が吹いて湖面が激しく波立つと、それまで綺麗だった湖は光の具合か真っ黒な怪物へと変貌し牙を剥くのだ。そうなると全身鳥肌が立ちもはやその場にはいられない恐怖感に襲われる。が、この恐怖感はクセになってしまうのだ。この感覚は街では決して味わえない。もちろんすぐに逃げ帰るのだけれども。
撮影:リバーノマド 支笏湖にて

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